【広汎性発達障害(PDD)における心の理論】


広汎性発達障害の子供の多くに、心の理論と言われる障害があります。
心の理論の機能を調べる検査の一つとして、以下のような方法があります。



サリー・アン課題

「Aが人形をかごの中に入れました。
Aが別の部屋へ行っている間に、Bが人形を別の箱の中に移しました。
しばらくしてAが戻ってきました。
Aは人形を見つける為に、どこを探すでしょうか?」

勿論、「かごの中」と答えるのが正解なのですが、
心の理論に障害がある子供達の場合、
相手の思い込みという概念が理解出来ない為に、
「箱の中」と答える割合が高くなります。



スマーティー課題

「Aがお菓子の箱を持っています。何が入っていると思いますか?」
と聞きます。子供が回答したら、
「Aは箱の中身を取り出して、中に鉛筆が入っている事をあなたに見せました。
そこに、まだ箱の中身を見ていないBがやって来ました。
Bに箱を見せて
『中には何が入っていますか?』
と聞いたら、Bは何と答えるでしょうか?」
と聞き、更に、
「最初にこの箱を見せた時、あなたは何と答えましたか?」
と尋ねます。

広汎性発達障害の子供に聞いた場合、
サリー・アン課題と同じく「鉛筆」と答えてしまう確率が高くなります。



アイスクリーム屋課題

「AとBは公園にいます。
そこにはアイスクリーム屋さんがいました。
Aはアイスクリームが欲しかったのですが、お金がありませんでした。
アイスクリーム屋さんは、
『今日はずっとこの公園にいるよ。』
と言いました。
Aは
『じゃあ、お昼過ぎにまた来るね。』
と言って、一旦家に戻りました。
Aが公園からいなくなった後で、アイスクリーム屋さんは
『駅前に移動してアイスクリームを売る事にしよう。』
とBの前で呟きました。
アイスクリーム屋さんが駅前まで向かう途中、Aの家の前を通りかかりました。
Aはアイスクリーム屋さんに
『どこへ行くの?』
と聞きました。
アイスクリーム屋さんは
『駅前に行くところ』
と答えました。
BはAにアイスクリーム屋さんの行く先を伝えようと、Aの家に行きました。
『Aはいますか?』
とAのお母さんに聞くと、
『アイスクリームを買いに言ったわよ。』
と答えが返ってきました。
Bは、Aがアイスクリームを買いに、どこへ行ったと思っていますか?
それはどうしてですか? 」

少々長い文章ですが、これは心の理論の二次的な課題と言って、
他人であるBが持っている「筈」の信念について、
正確に考える事が出来るかどうかをチェックする為のものです。



妨害と欺き課題

「鍵のかかる箱の中に、お菓子が入っています。
今から友達と泥棒が来ますが、友達の事は助けてあげて、泥棒は助けないようにしましょう。」
と説明した上で、回答者に以下の質問をします。

(妨害課題)
「友達がやってきました。あなたは箱に鍵をかけますか、それとも開けておきますか?」
「泥棒がやってきました。あなたは箱に鍵をかけますか、それとも開けておきますか?」

(欺き課題)
「今度は、箱に鍵が掛かっています。
友達がやってきて、『この箱は開けられる?』と尋ねました。あなたは何と答えますか?」
「泥棒がやってきて、『この箱は開けられる?』と尋ねました。あなたは何と答えますか?」

この課題では、他者の信念を操作する力を見ます。
質問は、それぞれ物理的な援助・妨害、心理的な援助・妨害が出来るかどうかを確認する為に行います。
ちなみに、広汎性発達障害の子供は、妨害は出来ますが、嘘を付いて欺く事は上手に出来ません。



悪意の無い嘘課題

「Aは、誕生日のプレゼントにウサギがもらえると期待していました。
しかし、プレゼントの箱を開けてみると、中には欲しくない絵本が入っていました。
お母さんに
『どう?気にいってくれた?』
と聞かれたAは、
『ありがとう。欲しかったの、この絵本。』
と答えました。
Aは本当の事を言っていますか?
また、それはどうしてですか?」

本当の事を言ってしまうと、相手を傷付けてしまう場合があります。
お子さんが、それを理解しているかどうかを確認する為の課題です。
自分の発言が、相手にどのような影響を与えるか想像出来ず、
思ったままを口にしてしまうのも、広汎性発達障害の特徴です。



心の理論の発達

定型発達の子供の場合、通常1歳半までに「ふり」ができるようになり、 4歳までに「騙す」事が可能になります。
広汎性発達障害の子供の場合、たとえば親が帰る「ふり」をした時に、 その行為が理解出来ずに、本気で怒ったりします。
これも、心の理論が未発達な為に起こる現象です。

上に挙げた課題の内、 第一水準 と呼ばれる、サリー・アン課題については、
健常の子供の場合、50%以上が3歳代で、90%以上が4歳代でクリア出来、
精神遅滞を伴うダウン症候群でも、86%の子供が同じく4歳代で通過するのに比べ、
広汎性発達障害の場合、正答出来るのはわずか20%程度に過ぎません。
スマーティー課題についても、定型的な発達を遂げている子供であれば、
サリー・アンを通過出来るようになった一年後にはほとんどが通過しますが、
広汎性発達障害の子供達にとっては困難な問題です。
この事は、言語性IQと深く関係すると考えられ、
彼らが第一水準の課題を通過するのは、
言語性発達年齢で9〜10歳と言われています。
実際この時期になると、子供達の多くは、
それまで困難だった、ルールの理解や周囲への気配りが出来るようになり、
急激に落ち着きます。
但し、心の理論の獲得と共に、他者の心を推測する事も可能となる為、
今度は別の問題が生じてきます。

さて、第一水準に関しては、高機能やアスペルガー症候群の場合は通過出来る事もありますが、
そのようなケースでも、 第二水準 と呼ばれるアイスクリーム屋の課題には、
ほとんどが引っ掛かってしまいます。
こちらの課題は、健常の子供の場合、6〜7歳が通過の目安と設定されています。

これらの事実から、広汎性発達障害の子供の多くが、 「他人は自分と違う考えを持っている」という事を想像出来ず、
事実だけを見て判断しているという事が分かります。
この事は、広汎性発達障害が、他者との関係性に障害を持っている事を示していて、
目が合いにくい、他者に注意を促す為の指さしが遅れるなど、乳幼児の時期からその傾向は顕著に現れます。

ちなみに、最後に挙げた、悪意の無い嘘の課題については、
第一・第二水準共にクリアする事の出来る、一部の高機能自閉症児・者に行っても、
全く出来ないか、出来ても正解を導き出す為のやり方が、健常者とは大きく異なるという結果が出ました。
全体的に文脈を無視するケースがとても多く、中には、
「絵本には、全部ウサギの事が書いてあったんだ。」
と答えた高機能自閉症の青年もいたそうです。

結局のところ、長じても彼らの心の理論の問題は全く消えるわけではなく、
それぞれが独自のやり方で、おそらくは健常者とは脳の違った部分を使って、
相手の感情などを理解する為の技術を作り出す事で、自らフォローしていくようになるのです。
しかし、このやり方は、必ずしも成功するとは限らず、
時には誤解が生じて、悩む事もあるでしょう。
このように、程度の差はあれ、障害の本質的な部分は残る為、
知的な部分に関わらず、広汎性発達障害の人達の生きにくさは、
一生涯にわたって続くのです。







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